第7回 地 震 

啓林館 地学  p69~77

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地震については,課題だけでなくここでの解説もしっかり覚えておいてください。プレート境界が3密の日本は,火山と地震の国です。
地震の原因
地震は,地下の岩盤の破壊現象=断層によって起こります。 このことが明らかになったのは明治24年(1891年)に発生した濃尾地震で震源と考えられる断層(根尾谷断層) が地上に現われ,その写真が世界に報じられたことによります。

  根尾谷断層(岐阜県水鳥地区);Wikipediaから
山崎晴雄(2011)
断層が地表に現われるとは限りませんが,過去しばしば内陸で発生する大地震(おおじしん)では, 断層の変位が認められることがあり,内陸直下型とか,活断層による地震とよばれます。 普段,それほどでもないゆれを起こす断層は,地下にあって見ることはできませんが, 震源となる断層(震源断層)があることになり,そのずれの始まりを震源,最も速くゆれの始まる直上の 地表を震央と言います。

       地震断層と震源,震源断層など
地震波と震源
震源で起こった振動は波として伝わり,P波とS波があることは中学でもやっていると思います。
気象庁のHPから
NHKの動画 地震波の伝わり方など参考にしてください。
 P波からS波までの時間差を,初期微動継続時間といい,震源からの距離が大きくなるほど長くなります。 この関係式はやはり日本で発見されていて「大森公式」と呼ばれます(明治の地震学者,大森房吉による)。 距離:D,初期微動継続時間:T,としてD=kT(kは比例定数)で,kを導く課題がありますが,T=ts-tpであり tp,tsを普通に速さと時間と距離の関係で式にすれば,順次求められると思います。 kの値は,地域によりますが,おおよそ8前後で,地震計の記録からTを読み取って,震源距離を3つの 地点で求めれば,コンパスを使った作図によって震源を求めることができます。
 3つの円がダブって重なりますが,それぞれの円どうしの交点を描くと,1点で交わり, この点が震央(X)になります。震源の深さは,どれか一地点からの震源距離(=半径)a と震央距離dと深さX-Y,の三辺からなる直角三角形の一辺なので,ピタゴラスの三角形として求めることができます(下図)。
啓林館教科書の図
震度とマグニチュード
 地震の大きさを表わす単位に,震度とマグニチュードがあります。震度はゆれの大きさを表わす0~7の10段階(5,6には弱と強)で, 5以上では被害が出ると考えておいてください。大きな地震が起こっても,震源から遠くなれば震度は徐々に小さくなります。 これに対して,マグニチュード(M)は地震そのものの規模を表わす尺度で, 7や8では大地震になりますが,2の違いが地震のエネルギーが1000倍の差と定義されています(1違うと1000の平方根で,32倍)。 これは,指数対数の関係です。 地震のマグニチュードの大きさを模型で比較する。
前半の課題は,この関係をグラフで確かめるというもので,松本先生のわかりやすい解説動画を見てください。 まず縦軸が対数メモリ(片対数)のグラフを描くことはできるでしょう。 対数メモリで直線になると言うことは,y=bX+a(直線)のyが=log10E,として値が成り立つようにすればよく, たとえば,M=0のときEは6.3×10^4ですので,log106.3×10^4を電卓で求めれば,yが分かり, M =0 なのでaは[  ]ですね。二つ目は実際に発生している地震のマグニチュードと回数の関係です。 これもグラフが描ければ(直線をあてはめる),この場合y切片を見つけるより,適当に2つの点の値から連立方程式でaとb(傾き) を求めてもいいでしょう。統計期間を50年から100年,200年に増やすと,グラフの傾きは同じですが, 直線が全体にシフトするので,起きうる地震の規模が大きくなることがわかります。
日本列島と地震
 はじめに示したように,地震は断層運動(破壊現象)で起こります。この元になる力を応力(ストレス)と言います。 その元になるのが,プレート運動であることはどこかで教わっていると思います。3.11東日本大震災(東北日本太平洋沖地震M9.0) は,プレート境界が断層運動を起こす典型的な例です。同様のプレート境界型は,1946年(昭和21年)に南海トラフで, 1923年には相模トラフで(関東大震災)を起こしました。マグニチュード(M )は8クラスで, 発生間隔は100年オーダー(関東地震は200年くらい)。プレートが動いている限り,これらの地震は無くなりません。 長期的にはそろそろ発生することが予想はできますが,正確に予知をするのは困難だと考えられています。 一方,内陸でも直下型の地震がたびたび発生します。2018年には北海道胆振東部地震(M6.7最大震度7) や,2016年の熊本地震(M6.5,最大震度7)がありました。北海道の地震は震源の深さが37kmと深く, プレート内部の破壊とみられていますが,熊本地震は典型的な,活断層による地震で, 地震断層が地表に現われています。
熊本地震の震源〇と周辺の活断層(赤実線);産総研「地質図Navi」から作成
熊本地震では,断層沿いで震度6以上の地震が5回も連続的に発生し,さらに大分の別府万年山断層の地震まで誘発したと考えられます。 この一帯は阿蘇山を含め,別府島原地溝とよばれる,プレート運動で分裂するリフト帯で,東は中部地方から続く 日本一長い活断層(中央構造線)に連続しています。秀吉の時代には大分で起きた慶長豊後地震と伊予地震(中央構造線上)につづき4日後には 有馬高槻断層帯が震源とみられる伏見地震(1596年)が発生しました。秀吉は2回の大地震を経験していて, 一度目は天正地震(1586年)で,もし天正地震が起こらなかったら,家康は滅ぼされていた,という話もあるくらいです。 秀吉・家康が直面した大地震
というわけで,大分で地震が起きたときは,中央構造線も動いて400年前の再来かと心配されましたが,事なきを得ました。 しかし,その前まで,九州は地震を起こすプレート境界からも遠いし,いままでも滅多に地震は来たことがない, と思われていたのです。活断層タイプの地震は,マグニチュードは7クラスでも,震源がその場所ですから被害も大きくなります。 しかも,日本はそこいら中に活断層があって,その活動間隔は短くて数100年,平均的には数千年くらいと思われます。 このような場所に暮らしていることを,きちんと頭に入れておいてほしいと思います。 火山もそうですが,災害をはらんだ日本列島のこれらの地学現象は,一方で様々な恩恵も,もたらします。 今でこそ,都市は海岸平野 (関東平野,大阪平野)に発達していますが,中世まではほとんどが,海や湿地帯で, 集落や街は盆地を中心に発達しました(京都奈良など)。 そして,盆地がなぜできるかというと,盆地のへりは,ことごとく活断層なのです(平野の山側も)。 活断層によって平地ができる,と覚えておいてください。

 最後に,過去の地震について,3.11以降に話題になった,9世紀の日本の地震について次の図を載せておきます。 3.11の津波災害とほぼ同じ地震が,平安時代の貞観年間にあって,1年後に肥後(熊本)地震がおこり, 9年後に南関東で,さらにその9年後には 仁和の南海トラフ地震が発生しています。貞観地震の5年前には富士山が噴火して富士五湖をつくり, その後鳥海山噴火,八ヶ岳の崩壊や,伊豆新島の大噴火などが立て続けに起こる,まさに大地動乱の時代でした。 関東大震災から97年たった現在,大都市を襲う地震のリスクが高まっていないと,誰にも言えないと思います。 日本列島の地殻変動に関しては,改めていつか授業でやりたいと思っています。

山崎晴雄(2011)はhttps://www.tama-100.or.jp/cmsfiles/contents/0000000/6/H23.sympisium(yamasaki).pdfより

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