第3回 地磁気と地球の内部構造 

啓林館 地学 p29~31およびp35~43 (box,p21~27,31~39)

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板倉聖宣(1980)「磁石の魅力」,仮説社から

 引き続き地球の内部はどうなっているかという話ですが,まず地磁気というものについて考えてみます。 コンパスの磁針が北を指す性質で,地球には磁場がある,という言い方もします。 磁石の性質は面白いですね。だれでも子供の頃に一度は磁石で遊んだことがあるのではないでしょうか。 高校では物理でやりますが,電・磁・力とか,電磁波など,現代では日常的に知らずに恩恵をうけています。 しかし,いつからこの磁石の性質が知られていたのかというと,「磁石」と書くように,もともとは石だったのですね。 天然の磁石は,私も持っていませんし,地学の標本でもほとんど見かけません。 どこかの博物館で見た記憶がありますが,それほど,天然の磁石は珍しいもので,この慈(磁)という字は, 古代中国の慈州という場所で磁石がとれたことにちなむのだそうです(冒頭の挿絵が載っている本より)。 同じ場所で焼き物(磁器)もつくられていたようです。中国の四大発明の1つが羅針盤と言われていますが, 三国志の時代から指南車という方位を知る器械(磁石ではないらしい)があり, 宋の時代には西洋よりも早くから,磁石によるコンパスが航海に使われていたようです。 遣隋使とか中国から鑑真が来た,というと船が大海原を渡るイメージがありますが, 古代の航海はすべて陸が見える範囲で昼間に行われていたと考えられます。 方角を知る星や太陽も曇ったら見えませんし,正確な時計やコンパスのない時代は, 陸が見えない海にでてしまったら,位置も方角も分からずアウトです(遭難して漂着するパターンはあったでしょうが)。 コロンブスの時代になってようやく羅針盤が大航海を可能にしたようです。 ただし,なぜ磁石が北を向くのかは,分かっていませんでした。地球が, 巨大な1つの磁石であることを見抜いたのは,イギリスのギルバート(「磁石論」1600年)です。 今回の課題にある,偏角や伏角のデータが世界中から集まるようになって(大航海)から推論したもので, それまでの「磁石は北極星に引き寄せられる」という説をコロンブスも信じていましたが, 航海中に北極星の方向と磁北がずれていること(偏角の存在)に気づいたそうです。 伏角の存在に気づいたのは,ギルバートの前のノーマンという人(1581年)で, この人は元船乗りで磁針の製造をしていたそうです。この説明を書くために知ったのですが, 当時の磁針(磁石)は鉄を熱して打ち鍛える(鋼をつくる)ときに南北の方向に向けてつくられた (地磁気の方向に磁化する性質を利用している)のだそうです(冒頭の挿絵)。
では,なぜ地球が巨大な磁石なのか,は鉄でできた外殻が液体で流動性を持つために何らかのしくみで電磁石となっている (これを
理論といいます。 空欄をうめる
;啓林館教科書p39(or35))からと考えられています。 ガス惑星である木星などには磁場がありますが,火星と金星には磁場がありません。 さらに,オーロラが見られたり,地球のまわりにバンアレン帯という宇宙から降り注ぐ放射線を 防ぐエリアが取り巻いていたりするのも地磁気があるためです。驚くべきことに,これは, チバニアンが話題になりましたので,知っているかもしれませんが,地球磁場は, 数十万から100万年程度の間隔で逆転(NとSが)することが知られています。このことが, 地球表面をおおうプレートが動いているという決定的な証拠に関わるのですが, これはしばらく先の話です。高温で溶けたマグマが冷え固まるとき,含まれている磁鉄鉱が, 地球磁場の方向に磁化すること(上の挿絵と同じ;残留磁気という)によって, 地球の過去について地質学的な手がかり(古地磁気)が得られることになります。いろいろありましたが, はじめに言ったように地学は雑多な知識の総合です。でも,他の分野と結びついて, 皆さんの知識が広がっていくと思うので,これからもよろしくおねがいします。 実習課題の,地球内部を進む地震波(走時曲線とシャドーゾーン)については, 私のPythonプログラミングによるシミュレーションの動画を紹介しておきます。 → こちら(滑舌が悪い説明ですが)
 杵島先生の動画の地球の形のところで,フランスアカデミーの測量隊(メートルの起源)の話がありましたが, そのすぐあとくらいに日本の伊能忠敬が,全国を歩いて測量し(フランスに負けるとも劣らない) 全日本沿海輿地図をつくった1800年頃は,日本付近の地磁気の偏角が,ほぼゼロで, 磁北と真北が一致していたことを紹介しておわりにしたいと思います(地磁気の永年変化;教科書同上)

今道周一(1984): 伊能忠敬時代の日本付近における地磁気偏角について,地磁気観測所要報, 20, 55-59.より


伊能忠敬が測量で使った 方位を測る「わんから」と呼ばれる道具
写真:千葉県香取市 伊能忠敬記念館所蔵

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